こんにちはロウシです。
いつも記事を一読してもらってありがとうございます。
今回は私が物理学上で最も美しい定理だと勝手に感じているNoetherの定理について取り上げようかなと思います。
Noetherの定理とは1915年にユダヤ系ドイツ人数学者のアマーリエ・エミー・ネーター(Amalie Emmy Noether)によって証明された物理学における非常に重要な定理です。
この記事ではNoetherの定理のしっかりした証明は行いません。それよりもNoetherの定理がどういった主張をしているのかやその意義について説明しようと思います。
場の理論でもNoetherの定理があるらしいですが、この記事では解析力学でのNoetherの定理について解説します。
この記事でわかることはこういったことです。
- 物理学における対称性
- 保存則の重要性
- Noetherの定理のココロ
- Noetherの定理の雑な証明
- Noetherの定理の意義
物理学における保存則
まず物理学における保存則とはどういった意味を持つのかについてざっくり説明します。
その前に本記事で用いる記号等の説明をします。
本記事で用いる記法
力学変数\(q_i(t) (i=1,2,…N)\)を基本的には用います。
ここで力学変数とは質点系の位置ベクトルのように各時刻tでの系の状態を一意的に指定する量で、一般化座標と言ったりします。
\(\dot{q}=\displaystyle \frac{dq}{dt}\) です。つまり\(\dot{q}\)は\(q\)の時間微分を意味します。ここからは
\(q(t)=(q_1(t),q_2(t),q_3(t),\ldots,q_N(t))\)
\(\dot{q}(t)=(\dot{q}_1(t),\dot{q}_2(t),\dot{q}_3(t),\ldots,\dot{q}_N(t))\)
という風に表します。つまり\(q_1(t)\)~\(q_N(t)\)をまとめて表しています。
本記事では基本的にEinsteinの縮約記法を用います。
これはある数式において同じ添え字(例えば\(i\))が2回現れたらその添え字について和をとるという約束事のようなものです。
例えば、
\(A_iB_i=A_1B_1+A_2B_2+A_3B_3 (i=1,2,3)\)
要するに\(\Sigma\)を書くのがあまりにも面倒くさいので省略しているということです。
またある3変数関数\(Y(q,\dot{q},t)\)があったとき、
$$\displaystyle \frac{d}{dt}Y(q,\dot{q},t)=\displaystyle \frac{ \partial Y(q,\dot{q},t) }{ \partial q_i }\dot{q}_i+\displaystyle \frac{ \partial Y(q,\dot{q},t) }{ \partial \dot{q}}\ddot{q}_i+\displaystyle \frac{ \partial Y(q,\dot{q},t) }{ \partial t}$$
とします。\(\displaystyle \frac{ \partial Y(q,\dot{q},t) }{ \partial q_i }\)はある関数\(Y\)を\(q_i\)で偏微分したことを表します。
保存則の重要性
保存則の重要性について話すまえに、保存則とは何かについて話そうと思います。
保存則とは、物理系の状態が変化しても,ある物理量の値が一定に保たれる法則のことを言います。
例えば、ある系に外力が働かないときその系の全運動量が保存する運動量保存則、物理・化学的変化において、エネルギーの総量が変わらないというエネルギー保存則などです。
ではなぜ保存則が物理学において重要なのでしょうか。
力学を例にとって考えてみましょう。
一般に力学では運動方程式あるいはEuler-Lagrange方程式などを用いて運動を解析します。
ちなみにEuler-Lagrange方程式について詳しくは話しませんが、Euler-Lagrange方程式は運動方程式をより広く適用できるように拡張したようなイメージがある式です(本当はすごく適用範囲が広い)。
そして運動方程式は一般には二階常微分方程式であり解くことが困難な場合があります。
ところがある保存量\(Q\)の存在はこれを
$$\displaystyle \frac{dQ(q,\dot{q})}{dt}=0 \tag{1}$$
の形に書き換えることが可能であるということを意味しています。(1)は両辺を積分して\(Q(q,\dot{q})=\)定数となります。
これはつまり元の運動方程式などが簡単な一階常微分方程式に帰着できたことを意味します。
より比喩的に言うならば、変化する運動を考えるときに、変化しないものがあると問題が簡単になるということです。
そもそも物理学における対称性とは
Lagrangianとは何か
対称性の話を始める前にどうしても話さなければならないLagrangianについて話します。
Lagrangianとは、ある系に固有の関数であり、ある系の運動(時間発展)を決めるような関数です。
具体的には
$$L=L(q,\dot{q},t)$$
のような形をしています。そして、Lagrangianが決まるとその系の運動が決まります。
ちなみに、保存力下の質点系に対しては
$$L=(運動エネルギー)-(ポテンシャルエネルギー)=T-U$$
として与えられます。
一般にLagrangianは後で述べる対称性を課す事で決定されたりします。
つまり、運動の決まり方は次のようなイメージです。
Lagrangianに対称性を課し決定する→Lagrangianが決まったので最小作用の原理より→運動が決まる
最小作用の原理についてここでは深く立ち入りませんが、運動を決めるような1つの基本原理です。
注意しなければならないのがLagrangian自体に物理的な意味はあまりありません。
「で、結局Lagrangianってなに?」と感じる方も多いのではないのでしょうか。
Lagrangianを何かに例えることは正直私にはできません。
ただ1つ言えるのがLagrangianを考えるとよりエレガントに運動が記述できるということだけです。
とりあえずは、「Lagrangianという関数を考えるとより綺麗に楽に運動を記述できる」という風に理解してもらえばよいと個人的には感じます。
物理学における対称性
本題の物理学における対称性の話を始めます。
物理学における対称性とはざっくり言うと、「ある変換に対して不変である」ということです。
例えば、空間を一様にずらしても物理法則が変わらないという空間並進の対称性や時間がたっても物理法則が変わらないという時間並進の対称性などです。
ではこれをどうやって数式で表せばよいでしょうか。
ここで出てくるのがLagrangianです。物理学ではLagrangianあるいは作用がある変化に対して対称であるということを用いたりします。
そしてLagrangianあるいは作用の対称性から保存則が生まれるというのがNoetherの定理の主張です。
では実際にNoetherの定理を見ていきましょう。
Noetherの定理の形とそのココロ
Noetherの定理
次のような微小変換を考える。
$$q_i(t)\rightarrow q_i(t)+F^A_i(q(t),\dot{q}(t))\varepsilon_A$$
$$\dot{q}_i(t)\rightarrow \dot{q}_i(t)+\displaystyle \frac{d}{dt}F^A_i(q(t),\dot{q}(t))\varepsilon_A \tag{2}$$
(2)の微小変換のもとでのLagrangian \(L(q,\dot{q},t)\)の変化分\(\delta L\)が、
$$\delta L=\displaystyle \frac{d}{dt}Y^A(q,\dot{q},t)\varepsilon_A \tag{3}$$
となるならば、
$$Q^A \unicode{x225D} \displaystyle \frac{ \partial L(q,\dot{q},t) }{ \partial \dot{q}_i }F^A_i(q,\dot{q})-Y^A(q,\dot{q},t) \tag{4}$$
であたえられる\(Q^A\)は保存量である。
これがNoetherの定理です。ここでいくつか捕捉をします。まず\(F^A_i\)の\(A\)は累乗ではなく\(F\)の上付きの添え字です。さらに\(i\)は\(F\)の下付の添え字です。\(Q^A\)の\(A\)も\(Q\)の上付きの添え字です。
そして\(A\)は変換の種類を表し、\(\varepsilon_A\)は\(A\)番目の変換の大きさを与える微小定数です。
また(2)において\(\Sigma_A\)を省略しています。つまり(2)では一般に複数の微少変換を同時に扱っています。\(F^A_i(q(t),\dot{q}(t))\)は今の微小変換を定義する量です。
Noetherの定理のココロ
Noetherの定理の主張をまとめると「ある系に連続的な対称性があるときそこに保存則が存在する」ということです。
要するに、Noetherの定理は対称性と保存則を結んでいるのです。
そしてNoetherの定理と対称性からさまざまな保存則を導出できます。
例えば、空間をずらしても物理法則が変わらないという空間並進対称性から運動量保存則、空間が回転しても物理法則が変わらないという空間回転対称性から角運動量保存則、時間がたっても物理法則が変わらないという時間並進対称性からエネルギー保存則などが導かれます。
このようにNoetherの定理の適用範囲は非常に広いです。
だからこそ現代物理学で最も重要な定理と言われたりすることがあるのだと思います。
Noetherの定理のざっくりとした証明
一応、少し雑で早足ですが、Noetherの定理の証明をします。
$$q_i(t)\rightarrow q_i(t)+F^A_i(q(t),\dot{q}(t))\varepsilon_A$$
$$\dot{q}_i(t)\rightarrow \dot{q}_i(t)+\displaystyle \frac{d}{dt}F^A_i(q(t),\dot{q}(t))\varepsilon_A \tag{2}$$
(2)のような微小変換のもとで\(L\)の変化分\(\delta L\)は\(\varepsilon_A\)が微少量なのでテイラー展開して一次の項まで取り出し、Euler-Lagrange方程式を用いて変形すると、
$$\begin{align} \delta L &=\displaystyle \frac{ \partial L(q,\dot{q},t) }{ \partial q_i }F^A_i(q,\dot{q})\varepsilon_A+\frac{ \partial L(q,\dot{q},t) }{ \partial \dot{q}_i }\displaystyle \frac{d}{dt}F^A_i \varepsilon_A \\\\ &=\displaystyle \frac{d}{dt}\left( \frac{ \partial L(q,\dot{q},t) }{ \partial \dot{q}_i }F^A_i \right)\varepsilon_A \tag{5} \end{align}$$
となります。いま(2)の微小変換のもとでのLagrangian \(L(q,\dot{q},t)\)の変化分\(\delta L\)が
$$\delta L=\displaystyle \frac{d}{dt}Y(q,\dot{q},t)\varepsilon_A \tag{3}$$
となるという仮定をしているので、
$$\displaystyle \frac{d}{dt}\left( \displaystyle \frac{ \partial L }{ \partial \dot{q}_i }F^A_i-Y^A \right)\varepsilon_A=0 \tag{6}$$
が成り立ちます。これが任意の微少量\(\varepsilon_A\)について成り立たなければならないので、
$$\displaystyle \frac{d}{dt}\left( \displaystyle \frac{ \partial L }{ \partial \dot{q}_i }F^A_i-Y^A \right)=0 \tag{7}$$
が成り立たなければならないです。よって、
$$Q^A \unicode{x225D} \displaystyle \frac{ \partial L(q,\dot{q},t) }{ \partial \dot{q}_i }F^A_i(q,\dot{q})-Y^A(q,\dot{q},t) \tag{4}$$
で定義される\(Q^A\)は保存量となります。つまり\(\displaystyle \frac{dQ(q,\dot{q})}{dt}=0\)が成り立ちます。
これでNoetherの定理の証明は雑ですができました。
時間並進の対称性からのエネルギー保存則の導出
では先程証明して見せたNoetherの定理を使ってエネルギー保存則を導出してみましょう。
エネルギー保存則は時間並進対称性から導かれます。
時間並進にたいして対称なつまりすこし時間がたっても変化しないLagrangianは一般に次のような形をしています。
$$L= L(q,\dot{q})$$
よって次のような微小変換を考えます。\(\varepsilon_0\)は微少量だとします。
$$q_i(t)\rightarrow q_i(t+\varepsilon_0)=q_i(t)+\dot{q}_i(t)\varepsilon_0$$
$$\dot{q}_i(t)\rightarrow \dot{q}_i(t+\varepsilon_0)=\dot{q}_i(t)+\ddot{q}_i(t)\varepsilon_0 \tag{8}$$
これもテイラー展開して一次の項まで取り出しました。
このような変換を施したときの\(L\)の変化分\(\delta L\)はEuler-Lagrange方程式を使わずに
$$\begin{align} \delta L &=\displaystyle \frac{ \partial L(q,\dot{q}) }{ \partial q_i }\dot{q}_i \varepsilon_0+\frac{ \partial L(q,\dot{q}) }{ \partial \dot{q}_i }\ddot{q}_i \varepsilon_0 \\\\ &=\displaystyle \frac{d}{dt} L(q,\dot{q})\varepsilon_0 \tag{9} \end{align}$$
となります。これらに対しNoetherの定理を適用すると(2)と(3)が(8)と(9)に対応することから、
$$F^A_i\rightarrow \dot{q}_i \\\\ \varepsilon_A\rightarrow \varepsilon_0 \\\\ Y^A\rightarrow L(q,\dot{q}) \tag{10}$$
ちなみに今一種類の変換しか考えていないので上付きの添え字のAは省略してよいです。
これを(4)に適用すると時間並進対称性からある保存量\(E\)
$$E=\displaystyle \frac{ \partial L(q,\dot{q}) }{ \partial \dot{q}_i }\dot{q}_i-L(q,\dot{q}) \tag{11}$$
を導くことができました。ただこれではエネルギーの実感がわかないので、よく知っている形になることを示します。
証明はしませんが、保存力下の質点系のLagrangian
$$L(\boldsymbol{x}(t),\dot{ \boldsymbol{x} }(t))=\frac{ 1 }{ 2 }m\dot{ \boldsymbol{x} }(t)^2-U(\boldsymbol{x}(t))$$
は時間並進に対して対称です。よってこのLagrangianを先程の(11)に代入すると
$$\begin{align} E &=\displaystyle \sum_{i=1}^{3}\displaystyle \frac{ \partial L }{ \partial \dot{x}_i }\dot{x}_i-L \\\\ &=m\dot{ \boldsymbol{x} }(t)^2-\left( \frac{ 1 }{ 2 }m\dot{ \boldsymbol{x} }(t)^2-U(\boldsymbol{x}(t)) \right) \\\\ &=\frac{ 1 }{ 2 }m\dot{ \boldsymbol{x} }^2+U(\boldsymbol{x}) \end{align}$$
となり見覚えがあるであろう力学的エネルギーの保存が導出されます。
Noetherの定理の意義と魅力
最後に完全に私個人のNoetherの定理についての感想を述べさせてもらいます。
Noetherの定理がどれだけ素晴らしい定理か皆さんわかるでしょうか。
Noetherの定理はそれまではバラバラだった保存則を対称性という観点から統一的に見ることができるようにする定理です。
すこしNewton力学を勉強したことがある方ならわかるでしょうが、Newton力学の保存則の導出は式変形的なものであり、あまり統一的ではありませんでした。
それをこのNoetherの定理は統一してくれます。正直私はこれを知ったときものすごく感動しました。
この記事の内容がほとんどわからなかったとしてもこれだけは覚えてください。
「Noetherの定理は「対称性と保存則」を結ぶ非常に美しく重要な定理」
まとめ
- Noetherの定理は「対称性と保存則」を結ぶ非常に美しく重要な定理
- 物理学における対称性とはある変換に変換に対して不変であること
- 保存量とは時間に依らず一定の量
軽く物理学における対称性と保存則の関係を知りたい方は↓